電 気 泳 動



 電気泳動は、液体の媒質中の荷電粒子が電場(電界)のもとで移動する現象。このとき容器の表面や支持体の荷電により媒質が帯電していると、媒質自体が移動する電気浸透現象が起きる。電気泳動および電気浸透は、分子生物学や生化学において、DNAやタンパク質などの高分子から代謝物などの低分子生体物質にいたる様々な生体物質を分離分析する手法として広く利用されている。この他血球などの浮遊細胞を電場中で移動させ、細胞表面の荷電の違いを観察する細胞電気泳動なども行われている。

 荷電粒子は液体の媒質ではその荷電と反対の極に向かって移動するが、媒質(担体)中や支持体にpH勾配があると、ペプチドやタンパク質など両性の荷電物質(pHにより陽イオンにも陰イオンにもなる物質)は有効表面電荷が0となる点(等電点 pI)で停止する。この原理を利用してタンパク質を濃縮分離する手法が等電点電気泳動である。

 アガロースやポリアクリルアミドゲルなどの支持体を用いると、DNAやタンパク質などの高分子イオンは、分子量の大きいものほど泳動速度が遅くなる。特にDNAやRNAは一様にマイナスに荷電しており、塩基長に基づいた分離が行えるため、塩基配列を解読する手段として広く利用された。
 これに対しタンパク質の荷電はアミノ酸組成によって大きく異なる。チセリウス電気泳動法やアガロース電気泳動、アガロースゲル電気泳動などは、タンパク質自体の荷電の違いによる分離分析法である。これに対し、陰イオン性の界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を共存させるとタンパク質の立体構造が崩れるとともに、分子全体に均一な荷電が付与されるため、ポリアクリルアミドなどのゲル中で分子量に基づいた分離が行える。この方法がSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)である。

 プロテオーム研究などで利用されている二次元電気泳動は、一次元目に等電点電気泳動を行い、二次元目にSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行う複合的な手法であり、タンパク質を荷電の違いと分子量の違いによって分離が行われるため、より高い分離性能が得られる。

【参考文献】
[実験講座シリーズ Part 2]「電気泳動法の基礎知識」、島尾和男、生物物理化学, 41(1), 1-11, 1997.

「等速電気泳動の理論」、島尾和男、生物物理化学, 27(3), 157-163, 1983.

「等電点および等速電気泳動法」、戸田年総、検査と技術, 13(6), 505-510, 1985, 医学書院.

「二次元電気泳動法」、戸田年総、続生化学実験講座 第2巻 タンパク質の化学(上), 日本生化学会編,15-31, 1987, 東京化学同人

「手作りの電気泳動法50年」、島尾和男、生物物理化学, 44(2), 67-72, 2000.